インフルエンザ

今回のインフルエンザ騒ぎの中、質問を受けたこともあり疑問点を調べてみたので備忘録として記す:

  1. インフルエンザの効果は何をReadoutとして臨床的・研究的に評価されているか
  2. インフルエンザの治癒過程での液性免疫と細胞性免疫の役割の解析はどこまで行われているか
  3. ゼロリスク症候群のにおいがプンプンするが、予防接種は何を目的としており、どのくらいの効果が期待されるのか

検索した資料、先ずはGoogleにて

  • 母子保健情報 第 59 号(2009 年 5 月)
    • www.aiiku.or.jp/aiiku/jigyo/contents/kaisetsu/ks0911/ks0911_5.pdf 
    • 抗体検査、つまり液性免疫が評価に使われていることが分かった。
    • 「ワクチン株と流行株の抗原性が一致した場合…」と記載されているが何を持って抗原性の一致としているのか
    • → 恐らくは不活化ワクチンに使ったウィルス株と流行したウィルス株の両方ともがワクチン接種後の患者由来の血清で赤血球凝集抑制がかかった場合に抗原性が一致したと解釈しているのではないか。ここは推測。
    • Immunodominantと考えられている赤血球凝集素 hemagglutinin (HA)抗原とノイラミニダーゼ neuraminidase (NA)抗原をシークエンスしてホモロジーをチェックしたところで結局、結果としての免疫応答を測定した方が正解に近いと思われる。逆に不活化ワクチンに使ったウィルス株と流行したウィルス株の蛋白の相同性とHI試験の結果の相関はどの程度実証されているのか調べる必要有り。
    • HA抗原がImmunodominantであると証明してる原著も、存在するのであれば探す必要有り。
  • まず基本をもう一度押さえる。In vitroでのReadoutとしては赤血球凝集抑制(HI)試験が使われている。
    • http://blog.livedoor.jp/pharma_di/archives/51463534.html
    • 要は血液中の抗ウィルス抗体によりウイルスの持つ動物赤血球凝集能がどの程度抑制されるかを希釈系列で定量化するもの。
    • インフルエンザでは40倍以上の希釈で赤血球凝集抑制が認められた場合、効果が期待されるとされているらしい
    • アナログな方法ですな。この赤血球凝集能とヒト細胞への感染能などとの相関はどうなのか→このHI検査の原著を探さねば
  • チラッと厚労省に情報があるかと思ってみたが、科学的な記載は無し、また参考文献も無し。しかし国立感染研Q&Aへのリンク有り。
  • 国立感染研Q&A
    • http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/fluQA/QAdoc04.html
    • 僅かに役立つ情報が2つ
    • http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/fluQA/QAdoc04.html#q18
    • 先ずはワクチンの精製法が記載されていた、不活化ウィルスをそのまま打つわけではなくHA分画を濃縮して取ってくるとのこと。多分遠心分離なのだろうが、具体的にはどのような操作で取ってくるのだろう。
    • →密度勾配遠沈法によりHAを回収して主成分とhttp://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/intro.htmlに記載有り
    • http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/fluQA/QAdoc04.html#q34
    • 次にゼロリスク症候群がらみ。脳炎予防効果は証明されていないとのこと。やはりなぁ。
    • Wikipediaも恐怖心をあおるような書き方をされていて感心しない。原則は99.99%の人に取っては4-5日休めば自然に治るちょっと症状の強い単なる風邪である。強い症状は最初の数日のみ、ワクチンもタミフルも別に必要無い。
    • http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AB%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B6
    • そもそも季節性インフルエンザで死亡する人など多くて年間数百人で200人〜2,000人である。今度の新型インフルエンザ(ブタインフルエンザ、A型H1N1)ではもっと少ないだろう。ちなみに交通事故で1万人、たばこによる肺がんで数万人毎年亡くなっているのが日本の実情である。交通事故で亡くなった方が周囲に何人いるだろうか。少なくともリスクはその10分の1以下超過死亡概念(下記)を取り入れても同程度である。中学生から60前後のいい大人までは「自分のために」インフルエンザワクチンなどを打つ必要は全く殆ど無い。あくまでハイリスクの人へ感染させないようにするために打つわけである。車のよけ方でも練習している方が余程寿命延長に効く筈である。
    • 超過死亡概念(インフルエンザが流行した年に通常年と比較して死亡者数が多くなった場合、それをインフルエンザによる死亡と見なす考え方である)というものを使うと流行した年は年間1万人程度がインフルエンザで死亡していることになっているが、そもそもこの考え方は正しいのだろうか。
    • 記憶に間違いが無ければ集団免疫の研究からは母集団の70~80%の人が免疫を持っていなければ、その集団での発生を防ぐことは出来ない。有料になるワクチン接種では接種率が20-30%になるというデータがあるらしい。日本は3,000円ほど費用を取っている。
    • しかもメディアはインフルエンザで亡くなった人を大々的に取り上げて国民の恐怖心をあおっている。O157、狂牛病、日本国民は何度メディアに踊らされて、罪亡い一部の人が損害を被ることを繰り返すのであろうか。O157ではカイワレ大根業者、狂牛病では牛を扱う農家が根拠のない損害を被った。そして今、皆まるで何も無かったかの様にカイワレ大根を食べ、牛丼を食べている。狂牛病など国内で一人でも発症したのだろうか。廃業になった業者は複数存在する。
    • 脱線したが、全国民の70-80%がワクチン接種する見込みがないのであれば、ハイリスクとその周囲を取り巻く人に無償でワクチンを接種させることを義務づけることが、正しい在り方なのではないのだろうか?
  • 思いついて「インフルエンザ 液性免疫 細胞性免疫」でググったところ
  • http://ruteth.cocolog-nifty.com/diary/
    • ここのインフルエンザ豆知識は個人のページらしいが、内容は信頼できそう、かつ概要把握に役立った。
    • HAは細胞感染に必要な蛋白ということでそれに対する抗体反応が強ければ感染しないだろうというストーリーは分かりやすい。
    • しかし「インフルエンザに対する免疫機能の主体は、抗体による液性免疫ではなく、細胞性免疫である」という非常に気になる記載有り。引用文献の記載無し
    • ウィルス感染なので当然細胞性免疫dominantだとは思ったが、細胞性免疫は確かに簡便な測定法がない
    • 恐らくT-dependent B cell activationで抗体は出来ており、抗HA抗体反応はウィルスに対する細胞性免疫活性化の程度と相関しているだろうという推測がそこにはあるのだろう。まあどうなのだろう。怪しい。
  • http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2009-11-12  http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2009-02-13
    • これを記載している医師も分かっている方の様で勉強になった。必ずしも西洋医学中心でなく、心療内科もされているとのことだが、興味深い先生。
    • (引用)「今回の行政の判断は、そもそも「集団予防」の効果しかないワクチンを、「個人予防」のために使う、という考え自体が誤りなのであり、…」正鵠を得ている。
    • 粘膜免疫を司るIgAではなくIgGを誘導するので感染自体は予防出来ないと厚生省も言っているらしい。
    • 実際には細胞性免疫が誘導されているのでは?と書いている、ま納得できる。
    • 吸入ワクチンのことが書かれていたが、これはアメリカでやられている奴なのかな。弱毒化ワクチンとは。ま、確かに少々怖い。
  • http://d.hatena.ne.jp/ousta/20091030/p2
    • ここもEvidence basedで良い感じ。しかし、インフルエンザワクチンというのは根拠が薄いワクチンの様子。
  • ふとヒトCD8 T細胞のテトラマー実験でインフルエンザペプチドをポジコンに使っていたことを思い出した。インフルエンザの共通抗原由来のペプチドなのだろうが、これからすれば誰でもある程度細胞性免疫は持っており、ワクチンはブーストになっているということになる。まあ、株に寄って異なる抗原部分(HAなど)が発病に決定的である場合にはワクチンが臨床効果に結びつくのだろうが。実際の発症率が接種群と無接種群でどのくらい差があったのか生データを探す必要ありそう。打てば発症しないというのは分かるが、打たない場合に発症するかは比較しないと分からないゆえ。この辺り、一時資料の参考文献引用付きでまとめているサイト無いだろうか。
  • マスク、うがい、手洗いの効果についても根拠を調べることとする。感触としては非常に怪しいと思っている。少なくとも風邪についてはマスク、うがい、手洗いの効果の根拠はないと聞いた記憶有り。日本国外では聞いたことがない。「原理的に良いはずだ」ということと「実際に効果がある」ということは別である。景観、美意識の観点から個人的には昨今の日本でのマスクブームは目に余るものがある。5年ぶりに日本に帰ってきて驚いたことの一つ。仮面ライダーのショッカーに囲まれている気分になる。誰か疫学的根拠があったら教えて欲しい。
  • 概要が分かったので、ここからは一時資料を読むことにする。今日はここまで。この頁は情報集め次第更新予定
  • 先ずはCDCを読まないと。
    • http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5707a1.htm
    • Methodsの章に大切な記載有り
    • The best evidence for vaccine or antiviral efficacy and effectiveness comes from randomized controlled trials that assess laboratory-confirmed influenza infections as an outcome measure and consider factors such as timing and intensity of influenza circulation and degree of match between vaccine strains and wild circulating strains (8,9). Randomized, placebo-controlled trials cannot be performed ethically in populations for which vaccination already is recommended, but observational studies that assess outcomes associated with laboratory-confirmed influenza infection can provide important vaccine or antiviral effectiveness data. Randomized, placebo-controlled clinical trials are the best source of vaccine and antiviral safety data for common adverse events; however, such studies do not have the power to identify rare but potentially serious adverse events.
    • (8) Smith NM, Shay DK. Influenza vaccination for elderly people and their care workers [letter]. Lancet 2006;368:1752–3
    • (9) Nichol KL, Treanor JJ. Vaccines for seasonal and pandemic influenza. J Infect Dis 2006;194:(Suppl 2)S111–8.
    • 先ずはワクチンがインフルエンザ予防に効果有りとされた根拠となる上記2つの原著を読んでみる。
    • それにしてもCDCの情報量に驚かされる。引用文献が502報。日本には比較可能なぐらいのサイトはあるのだろうか。
  • 日本国内のこれに相当するものがhttp://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/intro.htmlだとしたら少々悲しいものがある
    • ここには「死亡率の減少などとともに、次第に「インフルエンザはかぜの一種でたいしたことはない」という認識が我が国では広まってしまったが、決してそうではなく、国内でも地球的規模で見ても、インフルエンザは十分な警戒と理解が必要な疾患である。流行に伴う個人的・社会的損失はたいへん大きい。また新型インフルエンザウイルスの出現は必至である。これに対する警戒を怠ってはいけないことも強調しておきたい。」などと書かれているが、具体的に通常の風邪とどう異なり何故重大でどのように対処すれば良いかが結語の部分で全く書かれておらず「個人的・社会的損失はたいへん大きい」の一言で済ませている。そもそもインフルエンザ感染で個人的損失で大きなものなどあるのだろうか?
    • 「通常の風邪よりも流行しやすいため、重症化しやすい免疫学的弱者に対し集団免疫の観点から集団全体で予防を施すことが大切である。これを実現するには母集団の70-80%がインフルエンザに対する免疫を持ち、感染・排菌をしないようにすることが必要である。変異を起こしやすく免疫の維持が半年ほどであるインフルエンザに対しては毎年その年に流行が予測されるタイプのワクチンを母集団の70-80%のヒトが接種をうける必要がある。」こうは書けないものであろうか。
    • 過半数の日本国民にとっては「インフルエンザはかぜの一種でたいしたことはない」という言葉は真実と思われるが不用意にこれを全面否定することは恐怖心をあおっているメディアと変わらないように思われ、少々悲しくさえ思う。
  • 上記(8)の文献を読んでみた。2006年に出たreviewのreview。ということで更に孫引きが必要。しかし、ここにまとめられていることは高齢者と高齢者の治療に当たる医療者に対するワクチンの効果・副作用に関するsystemic reviewが行われ、高齢者に対するワクチンは副作用は無いものの効果はさほど無く(only modest reduction of complicationsという表現を使っている)、医療者に対する効果は示されなかったと書かれている。
  • 信頼する小児科医より情報を頂いた。歴史的経緯を良く御存知の方からの情報は大変助かります。
  • 先ずは前橋レポート
  • そしてそれを覆さんとする日本発のNEJM paper
  • ざっと読んだが、かなり両方とも質の高い資料の様子。読むのが楽しみである。
  • 今のところのワクチンに関する感想は下記の著者と同じといったところか
  • 覚え書き
    • Vu T et al. A meta-analysis of influenza vaccine in persons aged 65years and over living in the community. Vaccine 2002; 20: 1831-6.
    • Govaert TM et al. The efficacy of influenza vaccination in elderly individuals: a randomized double-blind placebo-controlled trial. JAMA 1994; 272: 1661-5.
    • Treanor JJ et al. Protective efficacy on combined live intranasal and inactivated influenza A virus vaccines in the elderly. Ann Intern Med 1992; 117: 625-33.
  • 新型インフルウイルスの免疫部分、季節性と共通点多数
    2009年11月17日8時40分
    http://www.asahi.com/science/update/1116/TKY200911160372.html

    新型インフルエンザウイルスの免疫にかかわる「目印」部分に、これまでの 季節性インフル(Aソ連型)と共通した部分が多数あることを、米ラホイヤア レルギー免疫研究所などが突きとめた。ワクチン接種が1回だけで免疫力が得 られる理由の可能性もある。今週の米科学アカデミー紀要(電子版)に発表する。

    病原体を抑える免疫反応には、大きく分けて2種類ある。特殊なたんぱく質 (抗体)がウイルスなどを攻撃する液性免疫と、リンパ球(T細胞)が攻撃す る細胞性免疫だ。これまで、高齢者の一部から新型ウイルスに反応する抗体は 見つかっていた。

    研究チームはT細胞に注目。ウイルスにある「抗原決定基」と呼ばれる免疫 反応にかかわる部分を調べた。すると、ある種のT細胞が反応する抗原決定基 は、季節性インフルのAソ連型に78個あり、このうち54個が新型インフル でも見つかり、69%が同じことがわかった。

    研究者は季節性と新型のウイルスが共通する部分を持つため、多くの人が何 らかの免疫反応を持っている可能性を指摘している。

    十分な免疫力を得るために新型ワクチンは2回接種が必要と考えられてきた が、臨床試験では1回で十分との結果が出ており、専門家の中には細胞性免疫 が関係するとの見方もある。(小堀龍之)

  • こんな記事が載っていたので、調べてみる。
  • http://www.pnas.org/content/early/2009/11/13/0911580106.abstract
    サラッと読んでみたが、予想していた細胞性免疫が強く絡んでいそうな点、抗原基はHAだけでは無い点、それなりの免疫を殆どの人は持っていそうな点に関して、全てビンゴでした。

    B cell, CD4 T cell, CD8 T ellの抗原として同定されたHA抗原部位43個のうち、保存されているのは立った5個(12%)でした。元々変異の多い部分だから毎年打たなければという理由で、HAを純化していたわけで保存されている部分はそれ以外の蛋白由来なのは当たり前に思える。ちなみにHA以外の蛋白由来の抗原決定基は50%以上保存されている。

    また逆に抗原決定基として同定された243(これはDatabase searchで出てきたものらしいので、Biasはかかっているだろうが)のうち、HA蛋白由来のものは43個即ち18%でした。

    つまりウィルス蛋白の中でターゲットとなっている抗原部位の18%がHA由来でそのうちの12%しか季節性と新型で保存されていないということになる。逆に言えばターゲットの8割はHA蛋白以外で、その2割のHA由来の抗原決定基の中でも1割しか季節性と新型で保存されていない、ということになる。

    HA純化により、「接種は1回でもOK」理論は日本の場合、妥当性が低くなる。ま、そもそもHAに本当に純化されていて、アジュバント効果も低いのであればワクチンとして効くこと自体が首をかしげる物なのですが。本当に効いているのであれば逆に純化の程度が低く、それならば上記の理論は当てはまるのかも知れない。

    また免疫の強さは多数決つまり抗原決定基の数で決まるわけではありません。抗原決定基が少なくてもそれに対するT細胞の反応が強烈であれば、極論すれば抗原決定基は1つでも良い。この現象をImmunodominancyと言うが、これについて定量的に研究するのは非常に困難。そこまではこの論文でも全く押さえられていない。

    PNASというのは著名な専門雑誌だが、一部peer review無しで載せられる。オバマにとってFlu vaccinationが政治マターになっているこのタイミングで出てくると邪推したくなるが、まあ恐らくは考えすぎだろう。

  • いずれにせよ調べていく中で実感することは、日本で行われているインフルエンザ対策はかなり的はずれであるこ点、ウィルスを研究している専門家の意見も御用学者以外のまともな物はあまり表に出ていないという点である。やはり専門家が分かる範囲でわかりやすい言葉を使って国民に発言することは、税金ベースの科研費で研究している以上、義務なのではないだろうか。

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