「丸山ワクチンの過去・現在・未来、自然免疫と癌治療」へのコメント

 丸山ワクチンの過去・現在・未来、自然免疫と癌治療

上記のエントリーには誤解を生みそうな文、文脈があり、非常に影響力のあるサイトゆえ注釈を入れた方が良いかと思われました。また非専門家であることは自覚の上まとめられておられ、癌に携わる医師・医学者からの反応を待っておられるのではないかと推測し、意見を書きます。

まず丸山ワクチンが癌を患わっている患者さんの癌を縮小したり、延命したりするという証拠は現段階では存在しません。生命科学の分野でここ数年MVPと評価された審良先生の素晴らしい仕事は丸山ワクチンが「仮に」効くと仮定した場合に、その効果を科学的に説明可能にする概念を示しただけであり、実際にその効果のメカニズムが分かったわけでは全くありません。

個人的には日本医科大学のホームページにある下記の記載が罪作りなのかなと思っています。
(1)副作用がほとんどない
(2)延命効果が見られる
(3)自覚症状の改善が図れる
(4)ガン腫の増殖が抑えられる

特に(2)(4)についてはまるで患者さんの体内でこのようなことが実際に起きるかのごとく記載されていますが、実際に癌腫の増殖が患者さんの体内で非投与群に比べて投与群が抑えられるというデータは存在しません。引用されているグラフもランダム化比較試験では無いため、本当に丸山ワクチンが効いて延命したのかどうか分かりません。それ故、医薬品として認可されていないのです。合成化合物ではなく結核菌抽出物であるいわゆるワクチンですから(1)は抗癌剤と比べればほとんど無いのは当然かと思われます。(3)についてもきちんとしたデータは出ていないと思われます。(2)(3)(4)に関しては文末に「…ことがあるかも知れない」というフレーズを付けないといけないのではと個人的には考えます。

「これによって初めて、なぜ感染症にかかった患者の癌が縮小するケースが見られたのか、「コーリーの毒」や「丸山ワクチン」になぜ癌を縮小させる効果が見られるのか、の説明がついたことになる。」という文脈がありますが、これは「…を説明可能な理論が提示されたことになる」に最低限変えないと嘘になります。現場で癌免疫を研究している者からすると「アジュバントという免疫学者の汚い秘密と言われていたものが、ある程度科学的にどういうメカニズムなのか説明するきっかけを審良先生が作ってくれた。」といった程度の状態で「丸山ワクチンがなぜ癌を縮小させるのか分かった」などとは口が裂けても言えない状態です。

またアンサー20は「放射線療法による白血球減少症」に対しての効果が認められた、つまり抗癌剤の副作用である白血球減少症により起きやすくなる肺炎など細菌感染症を防ぐ可能性を認められたのみで、癌に対する治療効果とは無関係です。サラッと流して読むと濃度を濃くすれば癌に効くような誤解を持たれる方が多いかと思うので、注意喚起した方が良いと思い記しておきます。

有償治験薬という肩書きをもち、9,450円/40日なので薬価だけだと年間9万円弱のコストになり、現在の抗がん剤薬価など他の医療費を考えると非常に安いと言えると思います。恐らく害はそれほどなく、悪徳商法というにはお金を左程取っていないので、患者判断で許される事例だと実情を分かっている医師たちも思い、流しているというのが現状ではないでしょうか。いずれにせよ癌に効く、効かないを決着させるには現在行われているのであれば二重盲検法を使ったランダム化比較試験の結果を待つ必要があると思います。

専門分野以外のことをまとめる際には個々の理解は合っていても、全体としてのメッセージが専門家であればありえない方向に行ってしまうことは良くあることです。中島 聡さんは一流のソフトウェアエンジニアであるので、専門分野であるソフトウェア関連のエントリーと今回の医学のような専門外のエントリーとは読み手の方が意識を持って異なる受け取り方をすべきなのですが、ナカナカ難しいものがあります。ある分野に一流な人は他分野についてのコメントも尊重されがちになってしまいます。難しいですね。

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