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福島第一原子力発電所事故(専門家リンク)

いつどうなったら避難すべき? どのくらいの被曝で何が起きるのか? 食べ物由来の被曝影響は? 正確には何が起きているの?という疑問に対し専門家によるソースリンク集を作りました。目を通し個人的に信頼出来ると感じたソースのみを逆引きでの形式で下記に記します。このまとめは随時更新予定です。

福島原発事故 専門家リンク集

1. どのくらいの被曝で何が起きるのか?
「福島第一原子力発電所事故」
齋藤俊樹
名古屋医療センター 再生療法研究部 血液内科
(自己リンクで恐縮です)

2. 食べ物由来の被曝影響は?
「東大病院放射線治療チームによる「内部被ばくと福島の”牛乳問題”の解説」」
元ソースTwitter:東大病院放射線治療チーム
関連ソースブログ:team nakagawa
中川恵一
東京大学医学部附属病院 放射線科 放射線治療部門

3. いつどうなったら屋内退避あるいは避難すべき?
「放射能漏れに対する個人対策」
山内正敏
スウェーデン国立スペース物理研究所(IRF)

4. 正確には何が起きているの?
「MIT NSE Nuclear Information Hub」
和訳:翻訳済み翻訳中
マサチューセッツ工科大学 原子力理工学部

5. もっと詳しいQ&Aは?
「 原発に関するQ&Aまとめ+」
早野龍五東大原子力系卒業生および有志協力チーム
東京大学大学院 理学系研究科・理学部

6.今後地震は増えるの?
 「東日本沖で起きた巨大地震について」
小山真人
静岡大学防災総合センター

福島第一原子力発電所事故(その2)

下記、私の卒業高校のメーリングリストでのやりとりですが、役に立つかも知れないのでに転載します。
また前エントリーも多少追加しましたので併せてご覧ください。

─────────────────────────────────────────

> このリンクは、「包括的核廃絶機構」かな? の情報に基づいたアメリカの記事なんだけど、△△にもらったメールでは、放射性物質がセシウムだから、このリンクに表示されてる風に乗ってやってくる放射性物質の危険度は、体内に1~2個入ってもだいじょうぶということか? というか、それぐらいは、日常的に吸い込んでるのかな?
> http://www.nature.com/news/2011/012345/full/news.2011.168.html
> http://www.zamg.ac.at/aktuell/index.php?seite=1&artikel=ZAMG_2011-03-17GMT09:15

〇〇の言っているのは、包括的核実験禁止条約機構
http://ja.wikipedia.org/wiki/包括的核実験禁止条約
http://en.wikipedia.org/wiki/Comprehensive_Nuclear-Test-Ban_Treaty_Organization
だね。

Natureの記事読みましたが、ここでも専門家が「The levels in Japan itself, outside the immediate vicinity of the Fukushima power plant, “wouldn’t scare me”, he adds.」
つまり福島原発のすぐそば以外であれば私は怖くないと言っています。

日常的に放射性物質となったセシウムを吸い込むことは無いと思います。ただ、セシウムから出るような放射線は日常的に浴びています。少量入っても大丈夫かということに関しては、大丈夫です。というか、何を持って大丈夫とするかですが、今の東京での放射線量は常識的な感覚で「全く」問題ないと言えます。

> 現在原発から半径20キロの避難命令と30キロの屋内待機命令が出ていて、米国からは50
> マイル(約80キロ)の避難勧告が出ています。昨日の米国公聴会では米国国内の原発事
> 故の場合は公式な避難命令は10マイル(約16キロ)なので、国内外で米国の方針が違うの
> はおかしいという意見表明が出る一方で、歴史的に10マイル(16キロ)は危険ではないか
> と言う声もあるそうです。

正直なところ放射性物質の拡散に関しては私はプロではありませんので正確なところは分かりません。素人として情報を漁った限りではやはり原則的には距離の二乗に反比例して濃度は薄まることは正しいようで(MIT website)、50km圏外であればチェルノブイリ級の事故でも直接被曝による被害は殆ど無いというのが感覚です。200km離れている東京に至っては何があっても問題ないと思います。ちなみに避難勧告は測定放射線量に応じて基準が決まっています。これこれの濃度に至る可能性があれば「退避」、これこれの濃度の可能性があれば「屋内待機」というようにです。つまり一律10マイルというのはナンセンスですし、今ひとつ分かりません。

チェルノブイリでは甲状腺癌が唯一増えたことが明らかになった癌ですが、この原因は当時ソ連が情報を隠蔽して放射性物質を高濃度に含んだ作物を食べた内部被曝によるものであることが分かっています。今回は情報を隠すことができない状況(リアルタイムで各地の放射線量はモニタリング・公開されています)ですし、日本人はバランス感覚を逸してヒステリックにしかも一時的にリスク回避する(かいわれ大根O-157,  狂牛病, こんにゃくゼリー vs 交通事故死 1万人/年、煙草による発がん6万人/年)ので、高濃度に被曝した作物を口に入れることはないでしょう。それよりも風評被害で実際には問題ないものも全く売れなくなるでしょう。こちらの方が私は心配です。

> 嫁さんの両親が概ね60キロ地点で生活しているのですが、どう思いますか。

ご両親は高齢ですので、失礼ですが全く問題ないと思います。急性障害は100mSv以上という非常に高い放射線量を短期間で浴びなければならないので、ブログでも記載したとおり現場以外ではまず起きません。なので心配すべきは晩発障害の発がんだけです。そして癌の発症率も子供であれば僅かな発ガン率の上昇も先が長いので気にならないことはないですが、ご高齢の方は平均寿命まで20年も無いので本当に影響は全く無視できると思います。それよりも精神的に不安定になることの方が可哀想ですね。

ちなみに私は癌のことをずっとやっていますが、日本が癌が多いのは全体で見ると発ガン率が高まったわけではなく、他の病気で死ななくなったからです。

> ちなみに今日のNew York Timesには、潜在的放射線は7マイルで40レム、10マイル
> で14-15レム、20マイルで13レム、30-50マイルで10-11レムという
> ことで、10-40レムはBlood Chemistry Changeを起こすとかいてありました。

いまどきレムとはNew York Timesもやりますね、古い単位です。1レムは 10 mSvです。潜在的放射線の意味がよくわかりません。大事故が起きた場合の線量でしょうか。7マイル 400 mSv, 10マイル 140-150 mSv, 20マイル 130 mSv、30-50マイルで100-110mSvということですね。ただこれが何の量なのか分かりません。これが毎時つまり400 mSv/時であれば結構な量なのでありえないと思います。おそらく400 mSv/年などかと思います。

発がんのリスクが明らかに上がる(わずかですが)ことが分かっているのが100 mSvからですが、これも実は不正確な表現で放射線の障害は照射総量だけでなく、その量の放射線をどのぐらいの期間で浴びたか、「線量率」と言いますが、これが大変効いてきます。つまりTotal 400mSvでもそれを1時間で受けるのか、1年かかって受けるのかで全く障害の程度は変わります。単純に短い期間で受けた方が障害は酷くなります。

ちなみに骨髄移植の際の線量率は5~15cGy/分つまり50-150 mSv/分, 3,000-9,000 mSv/時になります。これで骨髄移植の際は2,000 mSvを1回~6回照射(合計 2,000 mSv – 12,000 mSv)します。もちろん副作用や2次発がんも目に見えるほどありますし、そもそも比較すること自体がおかしいのですが、今議論されている量ですぐにどうこうなる(急性障害)は無いよ、あっても随分たってからの発がん(晩発障害)の率ですよということが言いたくて示しました。

> 内部被曝はどのような状況で起きる現象でしょうか?
> わかりやすくお願いします。
△△
> 花粉症で花粉ひっついたまた遊びに

〇〇
> 放射線源を体の内部に取り込んだ場合の被曝を外部被曝に対して内部被曝という。放射線源を体内に取り込む経路には以下のようなものがある。
> 放射性物質を口から取り込む(汚染された飲食物を摂取するなど)
> 放射性物質が皮膚の傷口から血管に入る
> 放射性物質のエアロゾルまたは気体を肺で吸い込む

△△と〇〇の回答で尽くされていると思います。被曝回避については、避難勧告圏外の人が除染(放射性物質を払い落としたり水で流したりすること)が必要な事態になることは本当に考えにくいと思いますので、気持ちの問題かと。実験で生の放射性物質はよく使うのですが、水で流すだけで簡単に落ちます。飛んでくる放射性物質をは△△の言うとおりイメージとしては花粉に近いです。なので対処も花粉対処と一緒になります。あとは食べ物に注意することですが、ここは日本なので間違い無く問題ないです。

以上です。今後も気軽に質問どうぞ。

(以上メーリングリストより改変後転載)

福島第一原子力発電所事故

福島原発事故について恐らく皆知りたいことは放射線をどのくらい浴びると何が起きるのか。病気になるのはどのレベルか、死ぬのはどのレベルか。

血液内科医として骨髄移植、つまり放射線を治療として使っていた者として知る限りの情報を提供したい。

まず単位
http://ja.wikipedia.org/wiki/放射線
http://ja.wikipedia.org/wiki/シーベルト
1 Svが約1 Gyであることを押さえればOK。また中性子線は治療では用いないのが、今回の事故ではありうるのかも知れない。臨界状態でしか生成されないので、問題になるのはγ線と考えればOK。

次に何が起きるのか?
一般的には下記のように書かれているが、これは放射線を受けた後に無治療だった場合の結果。
radiation.jpg

骨髄移植のバイブルである下記の教科書からの抜粋。1 rad = 10 mSv = 10 mGyと考えればOK。
thomas.png

radiation-normal-tissues1.png

まず体の中で一番放射線に弱い部分は骨髄であることがわかる。骨髄(血液をつくる骨の中の赤黒い物)は大体数百 radつまり、数千 mSv = 数Svぐらいから影響を受けていることが分かる。骨髄を含め、血液細胞でももっとも放射線に弱いリンパ球がやられ始めるのが0.2 Svぐらい。これが200 mSvぐらいから人体に影響が出ると言われているもの。

ちなみに骨髄移植では治療として 2 Gy(ミニ移植)〜12 Gy(通常の骨髄移植)を患者さんに照射している。つまり、2,000 mSv 〜12,000 mSvということになる。2 Gyであると自分の血液を作る力は一旦減るが数週間で元に戻る。他人の骨髄を入れるときは元々の骨髄を全滅させるので12,000 mSvという量をかける。この線量をかけると骨髄移植をしないと絶対に血液細胞は元に戻らない。骨髄移植は副作用で命を落とすほどの治療ではあるが、それでも治療に使うぐらいであるから、放射線治療の副作用のみで亡くなることは10%以下である。

ちなみにCTなどの放射線を使った検査を一回受けるだけで7~60 mSvを被爆する。

何となく線量のイメージをもっていただけただろうか。今朝までの放送では1,000μSv/h(毎時千マイクロシーベルト)の計測でどうのこうの、つまり1 mSv/hでなにやら騒いでいたので、数千mSvを治療として使っている側としては少し、大げさではと思っていたが。

しかし本日の11時過ぎに400 mSv/hが計測され、恐らくこの数値は上がる可能性が出てきたのを持って、これは一線を超えてしまったなと思い、このエントリーを書く気になった次第。つまり、そこに1時間立っているだけで、リンパ球が減る、最初の人体への影響がでることが分かる。但し、被曝だけならば5時間(400mSv x 5h = 2,000mSv)立っていたとしても、一番弱い骨髄でさえ自然に元に戻る。

事態を複雑にするのは「内部被曝」の存在。

簡単にいうと治療の場合、放射線を出す放射性物質自体は治療の機械そのものの中に入っていて、放射線だけを患者さんは浴びる。浴び終わってしまえばもう放射線を浴びる可能性は無い。実際の治療は数十分を何日間かに分けて行う。これが外部被曝。

ところがもし放射線を発する放射性物質そのものを鼻から吸い込んだり、口の中に食べ物と一緒に入れてしまったとする。そうすると体の中にいる限り、放射線を浴び続けることになる。30分で切り上げられる治療とは比べ物にならない間、被爆することになり、また積極的に体外にだすことも不可能。

平面密度は長さの二乗に反比例して減少する。単純計算では距離が10倍になれば濃度は1/100になる。そう単純ではないだろうが、いずれにせよ外部被曝を心配しなければならないのは恐らく現場の職員のみ。一般市民として心配しなくていけないのは圧倒的に内部被曝だと思われる。

線量に関しては上記の情報を参考に常識的感覚を養い、心配に必要なレベルの内部被曝に対してのみ敏感になれば良いかと思う。

今、願うのは
マスコミが恐怖心を煽る情報を流さないこと
専門家が発信すること
現場の命を賭して働いている職員が無事であること
である。

そして何より都内とそれ以西に住む人々は東北にゆくべき(水、食料品、電池、ガソリン)生活必要物資を「今」購入したりする「恥」を行わず、黙って献血と一息ついた時点での募金活動に集中すべきだと思われる。

【以下3月16日 追記】

妊婦さんに関しての質問を受けました。大切な点ですので本文に追記致します。

http://ja.wikipedia.org/wiki/放射線障害
この記載は正しいと思います。妊婦さんの中にいる胎児は16週令ぐらいまでは放射線への影響で奇形を起こす可能性があるので、医療の現場でもCTはおろかX線撮影も妊娠初期はなるべく避けることになっています。それでも100 mGy (≒ 100 mSv)までは大丈夫とされています。妊娠超初期(4週令ぐらいまで)では流産の可能性があります。よって妊娠の可能性のある方はそれ以外の方よりも慎重に行動すべきと思います。

ご質問の1才児に関しては大人と同じか、組織障害に対する耐性は大人よりも高いぐらいなので、急性障害については心配ないと思います。但し、数ヶ月から数十年後に起きる晩発障害としての癌ですが、若ければその先の寿命が長いわけで癌になる確率が高くなります。

晩発障害としての癌の発症については触れませんでしたが、100 mSv以下では癌の発症のリスクが上がるかどうかはっきり分かっていません。また100 mSvでも癌化の危険性が1%上がるのみです。1/3の人が癌になるとしても33%→34%になるだけで統計学的に上がるだけで実際には他の「運」の方が余程、その個人の人生には影響をあたえることになります。

嬉しいことに白血病やリンパ腫治療の際にお世話になっていた、東京大学医学部附属病院の中川 恵一先生(放射線科准教授 放射線治療の専門家です)がtwitterを開始しました。信頼できるソースとしてご利用下さい。
東大病院放射線治療チーム

簡易換算表:
1 Sv ≒ 1 Gy
1 Sv = 1,000 mSv = 1,000,000 μSv = 1,000,000,000 nSv
1 Gy = 1,000 mGy = 1,000,000 μGy = 1,000,000,000 nGy

【以下3月18日 追記】

MIT(マサチューセッツ工科大学)は理工学部系では世界のトップ大学と言っても過言ではない。この大学の原子力理工学部が今回の事故について解説している。
MIT NSE Nuclear Information Hub

素晴らしいことにGoogle Docsを使って素早く共同翻訳する作業が加藤 淳さんを中心になされており日本語で読むことが出来ます。

信頼できる情報源として御紹介致します。

「丸山ワクチンの過去・現在・未来、自然免疫と癌治療」へのコメント

 丸山ワクチンの過去・現在・未来、自然免疫と癌治療

上記のエントリーには誤解を生みそうな文、文脈があり、非常に影響力のあるサイトゆえ注釈を入れた方が良いかと思われました。また非専門家であることは自覚の上まとめられておられ、癌に携わる医師・医学者からの反応を待っておられるのではないかと推測し、意見を書きます。

まず丸山ワクチンが癌を患わっている患者さんの癌を縮小したり、延命したりするという証拠は現段階では存在しません。生命科学の分野でここ数年MVPと評価された審良先生の素晴らしい仕事は丸山ワクチンが「仮に」効くと仮定した場合に、その効果を科学的に説明可能にする概念を示しただけであり、実際にその効果のメカニズムが分かったわけでは全くありません。

個人的には日本医科大学のホームページにある下記の記載が罪作りなのかなと思っています。
(1)副作用がほとんどない
(2)延命効果が見られる
(3)自覚症状の改善が図れる
(4)ガン腫の増殖が抑えられる

特に(2)(4)についてはまるで患者さんの体内でこのようなことが実際に起きるかのごとく記載されていますが、実際に癌腫の増殖が患者さんの体内で非投与群に比べて投与群が抑えられるというデータは存在しません。引用されているグラフもランダム化比較試験では無いため、本当に丸山ワクチンが効いて延命したのかどうか分かりません。それ故、医薬品として認可されていないのです。合成化合物ではなく結核菌抽出物であるいわゆるワクチンですから(1)は抗癌剤と比べればほとんど無いのは当然かと思われます。(3)についてもきちんとしたデータは出ていないと思われます。(2)(3)(4)に関しては文末に「…ことがあるかも知れない」というフレーズを付けないといけないのではと個人的には考えます。

「これによって初めて、なぜ感染症にかかった患者の癌が縮小するケースが見られたのか、「コーリーの毒」や「丸山ワクチン」になぜ癌を縮小させる効果が見られるのか、の説明がついたことになる。」という文脈がありますが、これは「…を説明可能な理論が提示されたことになる」に最低限変えないと嘘になります。現場で癌免疫を研究している者からすると「アジュバントという免疫学者の汚い秘密と言われていたものが、ある程度科学的にどういうメカニズムなのか説明するきっかけを審良先生が作ってくれた。」といった程度の状態で「丸山ワクチンがなぜ癌を縮小させるのか分かった」などとは口が裂けても言えない状態です。

またアンサー20は「放射線療法による白血球減少症」に対しての効果が認められた、つまり抗癌剤の副作用である白血球減少症により起きやすくなる肺炎など細菌感染症を防ぐ可能性を認められたのみで、癌に対する治療効果とは無関係です。サラッと流して読むと濃度を濃くすれば癌に効くような誤解を持たれる方が多いかと思うので、注意喚起した方が良いと思い記しておきます。

有償治験薬という肩書きをもち、9,450円/40日なので薬価だけだと年間9万円弱のコストになり、現在の抗がん剤薬価など他の医療費を考えると非常に安いと言えると思います。恐らく害はそれほどなく、悪徳商法というにはお金を左程取っていないので、患者判断で許される事例だと実情を分かっている医師たちも思い、流しているというのが現状ではないでしょうか。いずれにせよ癌に効く、効かないを決着させるには現在行われているのであれば二重盲検法を使ったランダム化比較試験の結果を待つ必要があると思います。

専門分野以外のことをまとめる際には個々の理解は合っていても、全体としてのメッセージが専門家であればありえない方向に行ってしまうことは良くあることです。中島 聡さんは一流のソフトウェアエンジニアであるので、専門分野であるソフトウェア関連のエントリーと今回の医学のような専門外のエントリーとは読み手の方が意識を持って異なる受け取り方をすべきなのですが、ナカナカ難しいものがあります。ある分野に一流な人は他分野についてのコメントも尊重されがちになってしまいます。難しいですね。

インフルエンザ

今回のインフルエンザ騒ぎの中、質問を受けたこともあり疑問点を調べてみたので備忘録として記す:

  1. インフルエンザの効果は何をReadoutとして臨床的・研究的に評価されているか
  2. インフルエンザの治癒過程での液性免疫と細胞性免疫の役割の解析はどこまで行われているか
  3. ゼロリスク症候群のにおいがプンプンするが、予防接種は何を目的としており、どのくらいの効果が期待されるのか

検索した資料、先ずはGoogleにて

  • 母子保健情報 第 59 号(2009 年 5 月)
    • www.aiiku.or.jp/aiiku/jigyo/contents/kaisetsu/ks0911/ks0911_5.pdf 
    • 抗体検査、つまり液性免疫が評価に使われていることが分かった。
    • 「ワクチン株と流行株の抗原性が一致した場合…」と記載されているが何を持って抗原性の一致としているのか
    • → 恐らくは不活化ワクチンに使ったウィルス株と流行したウィルス株の両方ともがワクチン接種後の患者由来の血清で赤血球凝集抑制がかかった場合に抗原性が一致したと解釈しているのではないか。ここは推測。
    • Immunodominantと考えられている赤血球凝集素 hemagglutinin (HA)抗原とノイラミニダーゼ neuraminidase (NA)抗原をシークエンスしてホモロジーをチェックしたところで結局、結果としての免疫応答を測定した方が正解に近いと思われる。逆に不活化ワクチンに使ったウィルス株と流行したウィルス株の蛋白の相同性とHI試験の結果の相関はどの程度実証されているのか調べる必要有り。
    • HA抗原がImmunodominantであると証明してる原著も、存在するのであれば探す必要有り。
  • まず基本をもう一度押さえる。In vitroでのReadoutとしては赤血球凝集抑制(HI)試験が使われている。
    • http://blog.livedoor.jp/pharma_di/archives/51463534.html
    • 要は血液中の抗ウィルス抗体によりウイルスの持つ動物赤血球凝集能がどの程度抑制されるかを希釈系列で定量化するもの。
    • インフルエンザでは40倍以上の希釈で赤血球凝集抑制が認められた場合、効果が期待されるとされているらしい
    • アナログな方法ですな。この赤血球凝集能とヒト細胞への感染能などとの相関はどうなのか→このHI検査の原著を探さねば
  • チラッと厚労省に情報があるかと思ってみたが、科学的な記載は無し、また参考文献も無し。しかし国立感染研Q&Aへのリンク有り。
  • 国立感染研Q&A
    • http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/fluQA/QAdoc04.html
    • 僅かに役立つ情報が2つ
    • http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/fluQA/QAdoc04.html#q18
    • 先ずはワクチンの精製法が記載されていた、不活化ウィルスをそのまま打つわけではなくHA分画を濃縮して取ってくるとのこと。多分遠心分離なのだろうが、具体的にはどのような操作で取ってくるのだろう。
    • →密度勾配遠沈法によりHAを回収して主成分とhttp://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/intro.htmlに記載有り
    • http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/fluQA/QAdoc04.html#q34
    • 次にゼロリスク症候群がらみ。脳炎予防効果は証明されていないとのこと。やはりなぁ。
    • Wikipediaも恐怖心をあおるような書き方をされていて感心しない。原則は99.99%の人に取っては4-5日休めば自然に治るちょっと症状の強い単なる風邪である。強い症状は最初の数日のみ、ワクチンもタミフルも別に必要無い。
    • http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AB%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B6
    • そもそも季節性インフルエンザで死亡する人など多くて年間数百人で200人〜2,000人である。今度の新型インフルエンザ(ブタインフルエンザ、A型H1N1)ではもっと少ないだろう。ちなみに交通事故で1万人、たばこによる肺がんで数万人毎年亡くなっているのが日本の実情である。交通事故で亡くなった方が周囲に何人いるだろうか。少なくともリスクはその10分の1以下超過死亡概念(下記)を取り入れても同程度である。中学生から60前後のいい大人までは「自分のために」インフルエンザワクチンなどを打つ必要は全く殆ど無い。あくまでハイリスクの人へ感染させないようにするために打つわけである。車のよけ方でも練習している方が余程寿命延長に効く筈である。
    • 超過死亡概念(インフルエンザが流行した年に通常年と比較して死亡者数が多くなった場合、それをインフルエンザによる死亡と見なす考え方である)というものを使うと流行した年は年間1万人程度がインフルエンザで死亡していることになっているが、そもそもこの考え方は正しいのだろうか。
    • 記憶に間違いが無ければ集団免疫の研究からは母集団の70~80%の人が免疫を持っていなければ、その集団での発生を防ぐことは出来ない。有料になるワクチン接種では接種率が20-30%になるというデータがあるらしい。日本は3,000円ほど費用を取っている。
    • しかもメディアはインフルエンザで亡くなった人を大々的に取り上げて国民の恐怖心をあおっている。O157、狂牛病、日本国民は何度メディアに踊らされて、罪亡い一部の人が損害を被ることを繰り返すのであろうか。O157ではカイワレ大根業者、狂牛病では牛を扱う農家が根拠のない損害を被った。そして今、皆まるで何も無かったかの様にカイワレ大根を食べ、牛丼を食べている。狂牛病など国内で一人でも発症したのだろうか。廃業になった業者は複数存在する。
    • 脱線したが、全国民の70-80%がワクチン接種する見込みがないのであれば、ハイリスクとその周囲を取り巻く人に無償でワクチンを接種させることを義務づけることが、正しい在り方なのではないのだろうか?
  • 思いついて「インフルエンザ 液性免疫 細胞性免疫」でググったところ
  • http://ruteth.cocolog-nifty.com/diary/
    • ここのインフルエンザ豆知識は個人のページらしいが、内容は信頼できそう、かつ概要把握に役立った。
    • HAは細胞感染に必要な蛋白ということでそれに対する抗体反応が強ければ感染しないだろうというストーリーは分かりやすい。
    • しかし「インフルエンザに対する免疫機能の主体は、抗体による液性免疫ではなく、細胞性免疫である」という非常に気になる記載有り。引用文献の記載無し
    • ウィルス感染なので当然細胞性免疫dominantだとは思ったが、細胞性免疫は確かに簡便な測定法がない
    • 恐らくT-dependent B cell activationで抗体は出来ており、抗HA抗体反応はウィルスに対する細胞性免疫活性化の程度と相関しているだろうという推測がそこにはあるのだろう。まあどうなのだろう。怪しい。
  • http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2009-11-12  http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2009-02-13
    • これを記載している医師も分かっている方の様で勉強になった。必ずしも西洋医学中心でなく、心療内科もされているとのことだが、興味深い先生。
    • (引用)「今回の行政の判断は、そもそも「集団予防」の効果しかないワクチンを、「個人予防」のために使う、という考え自体が誤りなのであり、…」正鵠を得ている。
    • 粘膜免疫を司るIgAではなくIgGを誘導するので感染自体は予防出来ないと厚生省も言っているらしい。
    • 実際には細胞性免疫が誘導されているのでは?と書いている、ま納得できる。
    • 吸入ワクチンのことが書かれていたが、これはアメリカでやられている奴なのかな。弱毒化ワクチンとは。ま、確かに少々怖い。
  • http://d.hatena.ne.jp/ousta/20091030/p2
    • ここもEvidence basedで良い感じ。しかし、インフルエンザワクチンというのは根拠が薄いワクチンの様子。
  • ふとヒトCD8 T細胞のテトラマー実験でインフルエンザペプチドをポジコンに使っていたことを思い出した。インフルエンザの共通抗原由来のペプチドなのだろうが、これからすれば誰でもある程度細胞性免疫は持っており、ワクチンはブーストになっているということになる。まあ、株に寄って異なる抗原部分(HAなど)が発病に決定的である場合にはワクチンが臨床効果に結びつくのだろうが。実際の発症率が接種群と無接種群でどのくらい差があったのか生データを探す必要ありそう。打てば発症しないというのは分かるが、打たない場合に発症するかは比較しないと分からないゆえ。この辺り、一時資料の参考文献引用付きでまとめているサイト無いだろうか。
  • マスク、うがい、手洗いの効果についても根拠を調べることとする。感触としては非常に怪しいと思っている。少なくとも風邪についてはマスク、うがい、手洗いの効果の根拠はないと聞いた記憶有り。日本国外では聞いたことがない。「原理的に良いはずだ」ということと「実際に効果がある」ということは別である。景観、美意識の観点から個人的には昨今の日本でのマスクブームは目に余るものがある。5年ぶりに日本に帰ってきて驚いたことの一つ。仮面ライダーのショッカーに囲まれている気分になる。誰か疫学的根拠があったら教えて欲しい。
  • 概要が分かったので、ここからは一時資料を読むことにする。今日はここまで。この頁は情報集め次第更新予定
  • 先ずはCDCを読まないと。
    • http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5707a1.htm
    • Methodsの章に大切な記載有り
    • The best evidence for vaccine or antiviral efficacy and effectiveness comes from randomized controlled trials that assess laboratory-confirmed influenza infections as an outcome measure and consider factors such as timing and intensity of influenza circulation and degree of match between vaccine strains and wild circulating strains (8,9). Randomized, placebo-controlled trials cannot be performed ethically in populations for which vaccination already is recommended, but observational studies that assess outcomes associated with laboratory-confirmed influenza infection can provide important vaccine or antiviral effectiveness data. Randomized, placebo-controlled clinical trials are the best source of vaccine and antiviral safety data for common adverse events; however, such studies do not have the power to identify rare but potentially serious adverse events.
    • (8) Smith NM, Shay DK. Influenza vaccination for elderly people and their care workers [letter]. Lancet 2006;368:1752–3
    • (9) Nichol KL, Treanor JJ. Vaccines for seasonal and pandemic influenza. J Infect Dis 2006;194:(Suppl 2)S111–8.
    • 先ずはワクチンがインフルエンザ予防に効果有りとされた根拠となる上記2つの原著を読んでみる。
    • それにしてもCDCの情報量に驚かされる。引用文献が502報。日本には比較可能なぐらいのサイトはあるのだろうか。
  • 日本国内のこれに相当するものがhttp://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/intro.htmlだとしたら少々悲しいものがある
    • ここには「死亡率の減少などとともに、次第に「インフルエンザはかぜの一種でたいしたことはない」という認識が我が国では広まってしまったが、決してそうではなく、国内でも地球的規模で見ても、インフルエンザは十分な警戒と理解が必要な疾患である。流行に伴う個人的・社会的損失はたいへん大きい。また新型インフルエンザウイルスの出現は必至である。これに対する警戒を怠ってはいけないことも強調しておきたい。」などと書かれているが、具体的に通常の風邪とどう異なり何故重大でどのように対処すれば良いかが結語の部分で全く書かれておらず「個人的・社会的損失はたいへん大きい」の一言で済ませている。そもそもインフルエンザ感染で個人的損失で大きなものなどあるのだろうか?
    • 「通常の風邪よりも流行しやすいため、重症化しやすい免疫学的弱者に対し集団免疫の観点から集団全体で予防を施すことが大切である。これを実現するには母集団の70-80%がインフルエンザに対する免疫を持ち、感染・排菌をしないようにすることが必要である。変異を起こしやすく免疫の維持が半年ほどであるインフルエンザに対しては毎年その年に流行が予測されるタイプのワクチンを母集団の70-80%のヒトが接種をうける必要がある。」こうは書けないものであろうか。
    • 過半数の日本国民にとっては「インフルエンザはかぜの一種でたいしたことはない」という言葉は真実と思われるが不用意にこれを全面否定することは恐怖心をあおっているメディアと変わらないように思われ、少々悲しくさえ思う。
  • 上記(8)の文献を読んでみた。2006年に出たreviewのreview。ということで更に孫引きが必要。しかし、ここにまとめられていることは高齢者と高齢者の治療に当たる医療者に対するワクチンの効果・副作用に関するsystemic reviewが行われ、高齢者に対するワクチンは副作用は無いものの効果はさほど無く(only modest reduction of complicationsという表現を使っている)、医療者に対する効果は示されなかったと書かれている。
  • 信頼する小児科医より情報を頂いた。歴史的経緯を良く御存知の方からの情報は大変助かります。
  • 先ずは前橋レポート
  • そしてそれを覆さんとする日本発のNEJM paper
  • ざっと読んだが、かなり両方とも質の高い資料の様子。読むのが楽しみである。
  • 今のところのワクチンに関する感想は下記の著者と同じといったところか
  • 覚え書き
    • Vu T et al. A meta-analysis of influenza vaccine in persons aged 65years and over living in the community. Vaccine 2002; 20: 1831-6.
    • Govaert TM et al. The efficacy of influenza vaccination in elderly individuals: a randomized double-blind placebo-controlled trial. JAMA 1994; 272: 1661-5.
    • Treanor JJ et al. Protective efficacy on combined live intranasal and inactivated influenza A virus vaccines in the elderly. Ann Intern Med 1992; 117: 625-33.
  • 新型インフルウイルスの免疫部分、季節性と共通点多数
    2009年11月17日8時40分
    http://www.asahi.com/science/update/1116/TKY200911160372.html

    新型インフルエンザウイルスの免疫にかかわる「目印」部分に、これまでの 季節性インフル(Aソ連型)と共通した部分が多数あることを、米ラホイヤア レルギー免疫研究所などが突きとめた。ワクチン接種が1回だけで免疫力が得 られる理由の可能性もある。今週の米科学アカデミー紀要(電子版)に発表する。

    病原体を抑える免疫反応には、大きく分けて2種類ある。特殊なたんぱく質 (抗体)がウイルスなどを攻撃する液性免疫と、リンパ球(T細胞)が攻撃す る細胞性免疫だ。これまで、高齢者の一部から新型ウイルスに反応する抗体は 見つかっていた。

    研究チームはT細胞に注目。ウイルスにある「抗原決定基」と呼ばれる免疫 反応にかかわる部分を調べた。すると、ある種のT細胞が反応する抗原決定基 は、季節性インフルのAソ連型に78個あり、このうち54個が新型インフル でも見つかり、69%が同じことがわかった。

    研究者は季節性と新型のウイルスが共通する部分を持つため、多くの人が何 らかの免疫反応を持っている可能性を指摘している。

    十分な免疫力を得るために新型ワクチンは2回接種が必要と考えられてきた が、臨床試験では1回で十分との結果が出ており、専門家の中には細胞性免疫 が関係するとの見方もある。(小堀龍之)

  • こんな記事が載っていたので、調べてみる。
  • http://www.pnas.org/content/early/2009/11/13/0911580106.abstract
    サラッと読んでみたが、予想していた細胞性免疫が強く絡んでいそうな点、抗原基はHAだけでは無い点、それなりの免疫を殆どの人は持っていそうな点に関して、全てビンゴでした。

    B cell, CD4 T cell, CD8 T ellの抗原として同定されたHA抗原部位43個のうち、保存されているのは立った5個(12%)でした。元々変異の多い部分だから毎年打たなければという理由で、HAを純化していたわけで保存されている部分はそれ以外の蛋白由来なのは当たり前に思える。ちなみにHA以外の蛋白由来の抗原決定基は50%以上保存されている。

    また逆に抗原決定基として同定された243(これはDatabase searchで出てきたものらしいので、Biasはかかっているだろうが)のうち、HA蛋白由来のものは43個即ち18%でした。

    つまりウィルス蛋白の中でターゲットとなっている抗原部位の18%がHA由来でそのうちの12%しか季節性と新型で保存されていないということになる。逆に言えばターゲットの8割はHA蛋白以外で、その2割のHA由来の抗原決定基の中でも1割しか季節性と新型で保存されていない、ということになる。

    HA純化により、「接種は1回でもOK」理論は日本の場合、妥当性が低くなる。ま、そもそもHAに本当に純化されていて、アジュバント効果も低いのであればワクチンとして効くこと自体が首をかしげる物なのですが。本当に効いているのであれば逆に純化の程度が低く、それならば上記の理論は当てはまるのかも知れない。

    また免疫の強さは多数決つまり抗原決定基の数で決まるわけではありません。抗原決定基が少なくてもそれに対するT細胞の反応が強烈であれば、極論すれば抗原決定基は1つでも良い。この現象をImmunodominancyと言うが、これについて定量的に研究するのは非常に困難。そこまではこの論文でも全く押さえられていない。

    PNASというのは著名な専門雑誌だが、一部peer review無しで載せられる。オバマにとってFlu vaccinationが政治マターになっているこのタイミングで出てくると邪推したくなるが、まあ恐らくは考えすぎだろう。

  • いずれにせよ調べていく中で実感することは、日本で行われているインフルエンザ対策はかなり的はずれであるこ点、ウィルスを研究している専門家の意見も御用学者以外のまともな物はあまり表に出ていないという点である。やはり専門家が分かる範囲でわかりやすい言葉を使って国民に発言することは、税金ベースの科研費で研究している以上、義務なのではないだろうか。